コンポジション
書くのが楽しくなる作詞の技法

西端慶一

音楽制作プロダクションで作詞部門のディレクターを務める筆者が、オリジナル曲を初めてつくる主人公・ヨシオを、広く深い作詞の世界に誘う。

毎週火曜更新。

コンポジション 書くのが楽しくなる作詞の技法

#002 なぜ作詞は難しいのか
2019-05-25

ヨシオくんにレクチャーを始める前に、なぜ作詞はハードルが高いのか、少し考えてみたいと思います。そのハードルの正体がわかれば、作詞が少し身近に感じられるかも知れません。

答えはカンタン。作詞は、素材が豊富に、というより無限にあるからです。だから、どこから手を付けていいのかわからなくなってしまうんです。

ヨシオくんがギターを使って作曲するとき、まずは鳴らしてみるはずです。コードストロークなのか、カッティングなのか。そしてまた、コードの展開も選択肢は限られています。リズムパターンも候補はそれほど多くありません。つまり、作曲の作業は、ある意味で、あらかじめ用意されたパーツを取捨選択していくのに似ています。

メロディをつくるのもコレと同様です。ひとつの音を次の音につなげるとき、選択肢はドレミファソラシドの7つくらい(半音を考えても12個くらい)。それが選択肢のすべてです。

これは例えば、「カレーを作れ」と言われるようなものです。材料も、調理法も、それなりに限られている状況で、つくり始めるわけです。

一方で作詞は、「なんでもいいからメシをつくれ」と言われるようなものです。言葉をつなげて意味を持たせるのが作詞の本来のありかただとすれば、素材の数は作曲やメロディワークの比ではありません。国語辞典の最高峰・広辞苑は、収録語数がおよそ25万語。ちょっと英語も交えてみようとすれば、英語辞典は30万語を超えるものも少なくありません。コードの数、音階の数と比べるまでもないでしょう。そんな中から、何をつくるのか、そのために何が必要か、どのような調理法が考えられるのか。すべて自分で考え、答えを出し、実践していかないといけません。

もちろん、だからといって作曲やメロディワークが作詞よりもカンタンだ、というわけではありません。むしろ、いままで誰も食べたことのない、それでいて最高においしいカレーをつくるのは、ものすごく難しいでしょう。作曲やアレンジは、カレーの調理法と同じように、すでに出尽くしているともいわれています。

つまり、作曲やメロディワークは、限られた素材の中から組み合わせつつ、、オリジナリティを実現する難しさがあります。一方で作詞は、無限に広がる素材から、いちばん適していると感じるものを選び出すことそのものの難しさがある、というわけです。

偉大な先人の言葉をひとつ紹介しましょう。

「内面から生み出せるメロディワーク、コードワークがいつか枯れ果てるんじゃないか、という不安はずっとある。けれど作詞は、そんなことを思ったことはない。」

ビートルズというバンドが音楽の世界に残した数々の業績は、いまさら説明するまでもないでしょう。この伝説のバンドでソングライティングの中枢を担っていたのは、ジョン・レノンとポール・マッカートニーという2人の天才です。

ポールの音楽が、ポピュラーで社交的。ジョンの音楽は、内向的で自省的。そんなイメージで語られる2人ですが、前述の言葉の主、ジョンは、解散後のソロ活動で、ポピュラーでハッピーな作品をいくつも残し、そして「音楽は世界を救う」と本気で信じて、音楽でメッセージを発信しました。

そんな彼が無限だと信じたのが、作詞の世界なのです。